近藤史恵「サクリファイス」
ただ、あの人を勝たせるために走る。それが、僕のすべてだ―。二転三転する真相、リフレインし重きを増す主題、押し寄せる感動!自転車ロードレースの世界を舞台に描く、青春ミステリの逸品。
(「BOOK」データベースより)
72点
日本ではなじみの薄いロードレースを舞台にした物語。
主人公・誓は自転車ロードレースのプロチームでアシストとして活躍している。
アシストとはエースを勝たせる為だけに存在する、ロードレースならではのポジション。
そんな彼のチームのエースには悪い噂もあった…。
ミステリというより、主人公の成長物語。
ロードレースという馴染みの薄い題材、その中でもアシストというポジションに注目したテーマは非常に面白い。
タイトルからも分かるとおり、"犠牲"という概念が大きなテーマとなっている。
ロードレースの魅力は存分に出ていて、飽きないストーリー。
周囲のキャラクターもあまり深みは無いが良く描けていると思う。
自転車に乗りたくなるような爽やかなイメージの小説だ。
ラストの展開も非常に面白く、意外性もあった。
しかし悪い人間が納まるべきところに収まらないのは少しむずがゆい。
唯一の女性キャラクターも非常に不愉快なイメージで描かれ、そこに対しての結論が無いのも少し肩透かしを食らった感もある。
このあたりは女性作者ならではの女性の書き方なのだろうか。
リアルといえばリアルだし、それにかまわず成長する主人公はとても共感できるのだが。
少し気になる点もあるが、さらっと読めてロードレースというスポーツの魅力が伝わる一冊。
おすすめの本ではある。