森博嗣「フラッタ・リンツ・ライフ」
なにも欲しくない。誰のためでもない。誰も褒めてはくれない。ただ、飛び続けたい。僕が僕であり続けたい。生きているかぎり。
(「BOOK」データベースより)
70点
草薙と共に飛ぶクリタ視点で描かれた作品。
飛ぶ事に対して純粋なキルドレとしての視点はあるが、ここにきてキルドレにもかなり個性があると感じさせられる。
この作品で物語は更なる急展開を果たす。
といっても他の作品のもつ透明感や浮遊感を損なっていないのは凄い。
そして同じテイストが続いて飽きさせないのは、ストーリー展開ではなく、筆力や描写力によるものと感心させられる。
このストーリーは政治的な匂いやキルドレに関しての真実がより強く描かれている。
そういった意味ではあと一冊でスカイクロラに繋がるという、伏線回収の意識が強く出ていると感じた。
まぁ、その予想はクレィドゥ・ザ・スカイでもろくも崩れ去るのだが…。
この物語ではキルドレでなくなった草薙の姿とキルドレや戦争を起こす会社に対して反発する人々が描かれる。
そしてその思いに否応なしに取り込まれるクリタ。
しかし彼の思いはそんなところには無く、常に空へと向いている。
キルドレの空へのまっすぐな思いが描かれる反面、草薙水素のやりきれない思いを外側から感じてしまう作品。
ここで主人公を変えたのは非常に上手いと感じた。