中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

森博嗣「スカイ・クロラ」

僕はまだ子供で、ときどき、右手が人を殺す。その代わり、誰かの右手が、僕を殺してくれるだろう。

(「BOOK」データベースより)

91点

 

なんともいえない不思議な味わいがあるシリーズの第一作。

作品の時系列で言えば最後にあたる。

 

キルドレという特殊な人間である主人公カンナミユーヒチ。

彼は戦闘機に乗る事だけが生きがいであり、空を飛ぶ事でしか自由を感じない。

新しい基地に配置され草薙水素とであう彼の物語。

 

キルドレという彼らについてや、世界観についてはほぼ説明がなされない。

分かる事はキルドレは大人にならない事や感情が希薄な事、記憶が希薄な事くらい。

そんな彼らの目線で描かれた文体は人間味が希薄でその分真実をついているようにも感じる。

この文体が、このシリーズ一番の特長にも感じる。

 

その浮遊感のある文体と、空の描写。

謎ばかりな中で読ませていくストーリーとキャラクターの面白さ。

一週目のスカイ・クロラではそんな部分を中心に感じて読んでいた。

 

しかしこの作品の凄さは時系列を追って読んだ後にある。

まず書かれたこの「スカイ・クロラ」、そして「ナ・バ・テア」「ダウン・ツ・ヘヴン」「フラッタ・リンツ・ライフ」「クレィドゥ・ザ・スカイ」と刊行されている。

時系列で並べると「ナ・バ・テア」「ダウン・ツ・ヘヴン」「フラッタ・リンツ・ライフ」「クレィドゥ・ザ・スカイ」「スカイ・クロラ」となる。

つまり最後の話がまず出て、そこへの過程が時系列順に刊行された事になる。

この中で組み込まれた伏線やトリック、謎が全て「スカイ・クロラ」に集約されている。

そういった意味では全てを通して一つの作品とも言える非常に緻密な作りとなっている。

 

別世界に連れて行かれるような感覚や浮遊感。

文体でそれを表現しつつ、話の作りには見事に破綻が無い。

素晴らしいの一言に尽きる作品である。