奥田英朗「最悪」
その町には幸と不幸の見えない境界線がひかれている。事業拡大を目論んだ鉄工所主・川谷を襲うウラ目ウラ目の不幸の連続。町のチンピラの和也が乗りこんだのは、終わりのない落ちるばかりのジェットコースター。「損する側のままで終わりたくない!」追いつめられた男たちが出遭い、1本の導火線に火が点いた。
(「BOOK」データベースより)
84点
見事としか言いようが無い秀作。
前情報なしに読むのと、そうでないのとでは大きく異なるであろう作品である。
女子行員、鉄工所主、チンピラ。
三人の日常は最悪な事にあふれている。
最悪な人間に囲まれ、出口の無い海をさまよう。
彼らの日常の描き方が絶妙で、その苛立ちを読む側にも感じさせる。
その分、不条理さも感じる後半のジェットコースター的な展開に無理が無い。
特に謎の行動をとってしまう川谷が、前半でいやというほど追い詰められているのが、ここで生きてくる。
読後の爽快感は無いが、描写の上手さで後半の展開に不自然さを感じさせない。
そのため、結末にも納得がいくし、本当の意味で最悪な終わり方ではないと思う。
奥田作品の真骨頂とも言うべき作品。
読んでみて損は無いと思う。