東野圭吾「聖女の救済」
男が自宅で毒殺されたとき、離婚を切り出されていたその妻には鉄壁のアリバイがあった。草薙刑事は美貌の妻に魅かれ、毒物混入方法は不明のまま。湯川が推理した真相は―虚数解。理論的には考えられても、現実的にはありえない。
(「BOOK」データベースより)
72点
内海刑事に関して賛否両論あるガリレオシリーズだが、個人的にはありだと思っている。
その一端はこの作品にも起因する。
離婚を切り出された妻が持つ鉄壁のアリバイ。
しかし、彼女に怪しさを感じる内海と、彼女に取り込まれていく草薙。
そんな中、湯川が事件の真相解明に乗り出していく。
女心の描写の上手さ、そしてそこに絡んで推理をしていく内海のポジションはガリレオシリーズに新しい角度を与えていると感じた。
湯川なしでは解けないトリックのみで構成される犯罪は、結局のところ逆に限定的になってしまい面白みをなくす。
そういった意味では、複合的な推理視点の発生は良い事のように感じる。
トリック自体は突拍子もないし、虚数解という表現からも分かるありえない内容。
しかしそのトリック自体に面白みやミステリの醍醐味は感じない。
むしろ感じるのは恋愛物としての深みや人間の業である。
そういった意味では容疑者Xに比較的近い作品とも言える。
トリック自体にミステリ的な面白さがあった分、容疑者Xに軍配が上がるが、湯川の感性から外れた執着や業が犯罪の根幹にあるスタイルは面白い。
草薙の動き自体にも一貫性があり、魅力的。
トリックを除けば描写を含め、非常に面白い作品だった。