湊かなえ「告白」
「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラーが遂に文庫化!“特別収録”中島哲也監督インタビュー『「告白」映画化によせて』。
(「BOOK」データベースより)
86点
すべてが一人称独白からなる小説。
去年の話題で言えば、今これ以上の小説はないだろう。
賛否両論あるが、個人的には本屋大賞も頷ける。
「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」
シングルマザーの女教師・森口悠子がホームルームで告白した恐ろしい出来事からなる「聖職者」 。
そこから連なって進む出来事を、それぞれ別の視点で描いた連作短編集。
まず大きな出来事として女教師・森口悠子が告白し行った事が主軸にある。
そこから進展するクラス・家庭での出来事が、それぞれの一人称で語られる。
ある者は日記、ある者は応募する小説、ある者は電話、ある者はWEBサイト。
事実として独白された告白で構成された本作は、それぞれの言っていることが真実かは分からない。
それが一つのポイントとなっている。
いくつか不整合さ、都合よさを感じる部分もある。
例えば、悠子ととある人物の出会い方。
これを本人は偶然というが果たしてそうなのか?
そんなに都合よく、悠子にとって最も出会う必要のある人間にあえるのか?
計画されてたんではないか?
そんな読み方ができるので、ある意味小説としては卑怯なテクニックともとれるし、余白を残すことでその余地を与えたともとれる。
前者の取り方をすると、極論整合性など気にせず、本人の言いたいようにキャラクターに喋らせればいい。
まぁ、裏を流れる真実のストーリーを作者だけが把握しているので、そこはわからないが。
面白い点は山のようにある。
まずドライで冷静で狂気的な悠子のキャラクター。
娘を殺された母親として垣間見える激情と教師としての顔の二面性。
そしてその軋轢の中で本人が選択した決着の方法。
今までになかった、そして逆にリアリティを感じる"復讐者"を描いている。
また、すべて独白で表現される小説だが、前段の独白を受けての独白もある。
つまり小説内の記述を読んだ上で、それをバッシングする事もある。
読んでいる内に独白を忘れて、すべて真実を描いていると錯覚し、あまつさえ感情移入しようとしている読者に、凄まじいカウンターパンチを入れている。
これは非常に面白い。
また筆力もある作家な事も伺える。
年齢も大きく離れた複数人の人格で、長い独白を描き、それぞれのキャラクターを感じさせる書き分け。
作りこみすぎな感も、誰かに見せる為に書いた"独白"と思うと、キャラクターの自己顕示欲の表れと思えばリアリティともとれる。
作りそのものが余白を作り出し、キャラクター造形に味をだし、オリジナリティある展開を与え、ミスがあっても見えずらくする。
手法が多岐にわたっていい効果を出すこの手法。
戦略的にやったのなら天才。
書きたいことを書いて、結果的にこうなったのなら奇跡。
どちらにしろ、今後しばらく出ることのないレベルの作品である事は間違いない。