麻耶雄嵩「蛍」
オカルトスポット探険サークルの学生六人は京都山間部の黒いレンガ屋敷ファイアフライ館に肝試しに来た。ここは十年前、作曲家の加賀螢司が演奏家六人を殺した場所だ。そして半年前、一人の女子メンバーが未逮捕の殺人鬼ジョージに惨殺されている。そんな中での四日間の合宿。ふざけ合う仲間たち。嵐の山荘での第一の殺人は、すぐに起こった。
31点
問題作の多い作者が放った定番の"嵐の山荘もの"。
分かりやすいクローズドサークルをどう仕上げるのか期待した。
結果からいうと今ひとつといった感じ。
ちなみにどこまでをネタバレと感じるかは人それぞれかと思うが、以下若干のネタバレを含む内容。
犯罪のトリック自体は特筆する部分は無く、"嵐の山荘もの"としては禁じ手の方向で話を決着させる。
また読者に仕掛けている叙述トリックも今ひとつ。
1つの叙述トリックには、途中で明らかに違和感を感じてしまうし、もう一つの叙述トリックも勘のいい人なら"何故説明が無いんだ?"といった点で気が付くかと。
結構珍しい叙述トリックを組み込んでおり、そこが二重になっているあたり作者らしいが、違和感を感じさせては意味が無い。
ファイアフライ館の作りは面白いし、サークルメンバーも個性的で上手く書き分けている。
過去の事件の配置など含めて、確実な筆力は感じられる。
中盤まではその魅力でグイグイ引きこませる。
その分、後半のご都合主義的展開と、意味の無い叙述トリックで全体を煙に巻いてしまった事は残念。
サークルメンバーの中に過去の事件の関係者や、隠し事を持っている人間が配置されすぎているのもいただけない。
極端な話、破壊的な作者なら、さらにやりすぎても良かったのではないか。
中途半端な小細工が多く、作品のスケール感が無くなっている。
蛍というモチーフの配置、過去にあった楽団の惨殺事件などホラー的な要素が強い中で、ミステリとホラーのどっちつかずになってしまった印象。
また、改めて叙述トリックの難しさを感じさせる作品でもあった。