中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

奥田英朗「邪魔」

始まりは、小さな放火事件にすぎなかった。似たような人々が肩を寄せ合って暮らす都下の町。手に入れたささやかな幸福を守るためなら、どんなことだってやる―現実逃避の執念が暴走するクライム・ノベルの傑作、ここに誕生。

(「BOOK」データベースより)

Trial and Error

51点

 

奥田英朗の長編クライムノベル。

「最悪」と同じく、どこにでもいるような普通の人たちが暗闇に滑り落ちていく。

 

妻と子供を交通事故で亡くした刑事・九野薫。

夫が放火事件の第一発見者、郊外に住宅を購入しローンのためにパートをする主婦・及川恭子。

物語はこの二人を中心に進んでいく。

渡辺祐輔という高校生の視点もあるが、前述の二人に比べ登場は圧倒的に少ない。

 

序盤は警察内部の汚れた話、放火事件について淡々と物語が進んでいく。

かなり後半になるまで比較的停滞したままだ。

そのゆっくりした流れの中で及川恭子の心理描写は非常に上手く描けていたと思う。

 

その反面、九野の行動や描写には今ひとつ一貫性がなく、ラストまで行っても人物像が落ち着かない。

ミステリとして特筆する魅力がある訳でもなく、主人公たちの心理描写が肝になる作品なだけにこれは痛い。

 

また三人の主要登場人物やいろいろな伏線があまり絡み合うことなく、独立した物語を見せられたような感を受けた。

もちろん強引に絡めるよりリアリティは出たかと思うが、後半の流れそのものにリアリティを感じなかったので些かチグハグな印象。

 

及川恭子が転落していくリアルさで薄ら寒さを感じる所が、この小説の一番の見所か。

締めのあたりで数人の登場人物を使って、教訓めいた深みがある風の発言をさせているが、これもそこまで心には響かなかった。

 

タイトルの「邪魔」ももう少し入れ所を考えてほしかった。

読み方次第では、九野薫がその他の人間のまさに「邪魔」だったように感じたので、そちらに転ばせても面白かったのではないか。