中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

乙一「暗いところで待ち合わせ」

視力をなくし、独り静かに暮らすミチル。職場の人間関係に悩むアキヒロ。駅のホームで起きた殺人事件が、寂しい二人を引き合わせた。犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家へ逃げ込み、居間の隅にうずくまる。他人の気配に怯えるミチルは、身を守るため、知らない振りをしようと決める。奇妙な同棲生活が始まった―。書き下ろし小説。
(「BOOK」データベースより)
Trial and Error

52点


連発で乙一
装丁は無駄にホラー色があり好きではないが、タイトルは乙一らしくてとてもいい。
女性の顔が少し長体になっているように見えるのは気のせいだろうか?

目の見えないミチルと犯人として追われるアキヒロ。
二人が奇妙な共同生活を始めるというスタートはとても面白い。
ただ二人ともコミュニケーションが苦手で、外部との接触に恐怖を覚えるという設定は頂けない。

まず第一に、乙一の話にはこの設定が多すぎる。
人の目を恐れていた人物の成長を描く、という話には少し食傷気味だ。
そしてこの設定が多いということは、他作品と単純比較で比べられてしまうということ。
短編でこの設定を用いた上質の作品が多いので、長編で比べられるのは些か不利に感じる。

また二人の心理描写が近すぎて、面白みを感じづらい。
せめて片方だけでも違う悩みを抱いていれば、また違った角度からも物語が見えてきたのではと思う。

物語自体は冗長な感も否めない。
正直なところ、短編でやったほうが面白かったのではないかと感じてしまう。
短編でやれば、スピード感の無さも解消されたのではないか。

長編用にこの話を引き伸ばすには、"事件を増やす""人物の成長を緩やかに描く"などの工夫が必要だったと思うが、行われたのは延々と長い心理描写の水増しだった。

ミステリ自体はそれほど目を見張るところもなく、アキヒロの行動とキャラクターにも一貫性が薄く感じた。

設定や柔らかい描写などいい部分があるにも拘らず、ストーリーとキャラクターで質を下げてしまった作品。
とても期待できる設定だったので非常に残念である。