中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

瀬名秀明「パラサイト・イヴ」

永島利明は大学の薬学部に勤務する気鋭の生化学者で、ミトコンドリアの研究で実績をあげていた。ある日、その妻の聖美が、不可解な交通事故をおこし脳死してしまう。聖美は腎バンクに登録していたため、腎不全患者の中から適合者が検索され、安斉麻理子という14歳の少女が選び出される。利明は聖美の突然の死を受け入れることができず、腎の摘出の時に聖美の肝細胞を採取し、培養することを思いつく。しかし、“Eve1”と名づけられたその細胞は、しだいに特異な性質を露わにしていった…。第2回日本ホラー小説大賞大賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)
Trial and Error

48点


瀬名秀明のデビュー作であり、ベストセラーとなった作品。
著者の薬学部出身というバックボーンがフルに活かされている。

物語は数人の視点を行き来する形で描かれていく。
序盤から中盤は科学的な裏づけとなる話が多く、冗長な流れで進む。
その分、中盤からのスリリングな滑り出しは疾走感を伴い心地よい。

聖美の事故死から始まったストーリーは二方向に分岐する。
主人公・利明を中心とした、聖美の肝細胞から"Eve1"を抽出し、その細胞が異常な反応を示していく、薬学部での流れ。
移植医・吉住によって麻里子に移植された聖美の腎臓。
何故か腎臓に対し拒否反応を示す麻里子を追っていく、市立病院の流れ。
その二つの流れが加速し、行き着く先こそこの小説のメインとなっている。

全体的に科学的な裏づけに割いている量が多く、ホラー、SFというジャンルでそこまで必要なのか?と思わせてしまう。
もちろんそのおかげで、リアリティを生み出し、オリジナリティを生み出せていることも確かだ。

また中盤までの各人の心理描写、特に麻里子の葛藤などが後半の展開に活かされていないことも残念。
この物語でいう"敵"の目的も若干不明瞭だし、その成り立ちの割には行動も即物的に感じられた。
ラストも若干拍子抜けしてしまう。

起承転結でいうとこんな感じ。
期待感を煽り、物語の世界観に引き込む"起"。
科学的な話が多く、不必要な心理描写もあり冗長な"承"。
一転、スリリングに急加速していき、息が詰まるほどの緊張感を与える"転"。
あっけなさと共に"敵"の一人相撲な印象が残った"結"。

"転"での面白さのために前半を溜めたが、最後の最後で不発に終わったという印象。
科学的な裏づけに関しては一貫した姿勢を貫いている部分は潔いとも感じるが、そこに頼りきったラストはいただけない。
万人が納得できるラストがこの作品には必要だったのではないか。