歌野晶午「長い家の殺人」
消失死体がまた元に戻る!?完璧の「密室」と「アリバイ」のもとで発生する、学生バンド“メイプル・リーフ”殺人劇―。「ミステリー史上に残ってしかるべき大胆なアイデア、ミステリーの原点」と島田荘司氏が激賛。この恐るべき謎を、あなたは解けるか?大型新人として注目を浴びた鮮烈なデビュー作。
(「BOOK」データベースより)
11点
1988年初版刊行のこの作品。
現在にして思えば、歌野晶午という才能を見抜いた島田荘司は素晴らしいと思う。
この作品を見る限りは、まだその才能の片鱗は見えない。
学生バンド「メイプルリープ」が泊まったゲミニー・ハウスで事件は起こる。
この館の構造などなど露骨なヒントが散りばめられ、トリックはすぐに見えてしまう。
逆に「ホントにこれが真相なのか?」と思ってしまうほどあっさりと。
あまりハウダニットに拘りたくは無いが、ここまで分かりやすいのはどうだろう。
トリック自体も大味で現実味が無い。
他の設定が現実的なだけに気になる。
またキャラクターに魅力が無い。
バンドメンバーは読みわけが難しいほど個性が無い。
後半に新人物が登場することも序盤で分かりやすい伏線があり、その役割も明示されてしまっている。
そのわりにこのキーパーソンのキャラクターも捻りが無く表面的だ。
犯人自体は見えてこないが、そこへのヒントも分かりやすい。
そして動機もかなり不明瞭なもので、何故人を殺さなければならなかったのかと首をひねってしまう。
バンドの描写が不自然でお寒いのは古さのせいと信じたい。
1988年には女性のPAはいなかったんだろうか?
バンドが中断した時に部外者に謝らせたりするPAなどいるのか?
そもそも三部構成のライブって?など気にしてはいけないのだろう。
ミステリとしてはかなり未成熟。
ディテール、キャラクターも残念な出来。
白い家、動く家と徐々に面白くなっていくと聞いたので、それに期待したい。