中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

小林泰三「肉食屋敷」

ジュラシック・パークに刺激された研究者が、6500万年前の地層の中にあるDNAから地球外生命体を復元してしまう「肉食屋敷」、西部劇をモチーフにゾンビの世界を描いた「ジャンク」、人間の一途な愛が恐怖を生み出す「妻への三通の告白」、自分の中にあるもう一つの人格が犯した殺人に怯える「獣の記憶」。現実のちょっと向こう側に渦巻く恐怖の世界を創り上げた傑作短篇集。
(「BOOK」データベースより)
Trial and Error

29点

玩具修理者が秀作だった小林泰三の第三短編集。
怪獣物・西部劇・サイコサスペンス・ミステリーと多様な作品が読める。
だが根底にはホラー、そして今回は強いSF色がにじみ出ている。

短編は「肉食屋敷」「ジャンク」「妻への三通の告白」「獣の記憶」の四編からなる。
ここではそれぞれの感想を記載したい。

「肉食屋敷」
役所職員の主人公は、山上に放置されたトラックの件でとある研究所を訪れる。
そこには不気味な雰囲気の建物があった。
まずタイトルを見て映画モンスター・ハウスを思い浮かべたが、それよりはるかにエグい。
設定は荒唐無稽でSFとしても、あまりにも飛びすぎかと。
オチはそれなりに楽しめたが、全体としてはそれほど。

「ジャンク」
体に女性の顔を縫いつけたハンターキラーのお話。
時代などに関して記述は無いが、西部劇のような設定である。
若干下らないオチだが、かもし出すSF+西部劇はなかなか味がある。

「妻への三通の告白」
癌を宣告された老いた男性。
彼は寝たきりの愛する妻に手紙を書くが…。
この話はかなり早い段階で最後が分かってしまった。
手紙の内容を重ねていくことで見えてくる狂気は、描き方に深さがなくあまり面白いとは思えない。

「獣の記憶」
自分の中にあるもう1つの人格に怯える男の話。
でだしからどんでん返し臭が漂い、多少先が見えてしまう展開が気になった。
ミステリーとしてもかなり無理がある。

全体的に小粒な作品ぞろい。
突拍子も無いアイデアはあるが、どんでん返しが強引で逆に浅薄な出来に。
人間の深みやSFとの融合を上手に仕上る作者の持ち味は出ていなかった。