中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

恒川光太郎「夜市」

大学生のいずみは、高校時代の同級生・裕司から「夜市にいかないか」と誘われた。裕司に連れられて出かけた岬の森では、妖怪たちがさまざまな品物を売る、この世ならぬ不思議な市場が開かれていた。夜市では望むものが何でも手に入る。小学生のころに夜市に迷い込んだ裕司は、自分の幼い弟と引き換えに「野球の才能」を買ったのだという。野球部のヒーローとして成長し、甲子園にも出場した裕司だが、弟を売ったことにずっと罪悪感を抱いていた。そして今夜、弟を買い戻すために夜市を訪れたというのだが―。第12回日本ホラー小説大賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)
Trial and Error

31点


2005年・第12回日本ホラー小説大賞受賞作。
大賞があまり出ないこの賞だが、審査員が絶賛し満場一致で決定したという。
読後の感想としては、それほどの作品なのかと。

そもそも日本ホラー小説大賞は、他の賞よりかなりムラがあると個人的には思う。
「黒い家」のような秀作もあるが、「姉飼」のようないただけない作品も。
受賞のレベルがあまり一定ではなく、なぜか大賞を落選した秀作も多くある。
逆にこの作品は何故大賞なのかが全く分からない作品だった。

この小説は短編の「夜市」「風の古道」と二編が収録されている。
表題作の夜市は、奇奇怪怪が跋扈する夜市に向かう裕司と主人公・いずみの物語だ。

まず設定を含めて都合よく作られている部分が多すぎる。
夜市内でのルールや偶然としては出来すぎの出会いなど。
ここまで好き勝手に都合を作ってよいのであれば、ホラーというジャンルはその存在そのものが不安定になってしまう。
都合を小説にあわせるのはよくあるが、そこに対してプロットを組み込み、都合にいかに見せないかが小説というものだと思う。
そういった意味ではかなり出来が悪い。

また偶然が色々発生するような崩壊的な印象を受けない地の文も物語と相性が悪い。
文章そのものを切り離して考えれば、なかなか悪くない雰囲気作りが出来ているので、やはり設定面のほうがいただけないのだろう。

人物描写に関しても、最近見たことが無いほど薄い。
しかも薄くて成り立つタイプの小説では無い印象を受けた。
日本の「夜市」。
そしてそこの人間模様を描くにはいくらなんでも軽すぎる。
主人公いずみの存在意義が見えないし、裕司の意図も伝わってこない。

夜市というボンヤリとしたものを描くので意図的にこうしたきらいもあるが、結果的には成功していない印象だ。

「風の古道」に関しても、ほぼ同じ印象を受けた。
しかし設定面、人物描写含め、一歩か二歩こちらの方が面白い。
この短編は「まつろはぬもの」として漫画化もされている。
そういえば漫画も面白くなかったなぁ、と少しだけ記憶がよみがえった。