麻耶雄嵩「神様ゲーム」
小学四年生の芳雄の住む神降市で、連続して残酷で意味ありげな猫殺害事件が発生。芳雄は同級生と結成した探偵団で犯人捜しをはじめることにした。そんな時、転校してきたばかりのクラスメイト鈴木君に、「ぼくは神様なんだ。猫殺しの犯人も知っているよ。」と明かされる。大嘘つき?それとも何かのゲーム?数日後、芳雄たちは探偵団の本部として使っていた古い屋敷で死体を発見する。猫殺し犯がついに殺人を?芳雄は「神様」に真実を教えてほしいと頼むのだが…。
(「BOOK」データベースより)
84点
2006年版このミステリーがすごい!第5位の作品。
講談社から刊行されている「ミステリーランド」の中の一冊である。
ミステリーランドは児童書として分類されているが、この作品の内容はかなりえげつなく、児童書の顔をした凶悪な小説だった。
文章にはルビが振られ、小学生四年生・芳雄の独白として進んでいく。
内容は少年探偵団ものであり、そういった意味では児童書として成立しているかのようである。
このストーリーで異質なのは鈴木太郎という神様を名乗る少年の存在。
彼の語ることは真実となり、神でしかしえない天誅を下す。
その絶対の存在をサブキャラクターとして少年探偵団は猫殺し、そして殺人事件に巻き込まれていく。
神様の語る真実は非常にえげつない。
そして真相も目を背けたくなるほどの悲惨さ。
文中の描写もかなり攻め込んだものが多い。
そのホラーにも近い体裁と対比して、ルビの振られた文章や小学生である主人公の語り、そして原マスミの挿絵がある。
この二方向の要素はお互いを中和することなく、不気味さをよりいっそう強調することとなっている。
児童書の悪用と言ってもいいだろう。
しかし話は非常に面白い。
異彩を発し、物語を要所要所でコントロールする神様の存在。
児童書の域を超えた本格的なトリック。
神様の言うことが真実として、犯人ありきで描かれていく描写。
そして巧妙に張り巡らされた伏線と仕掛け。
文句の無いミステリーとして仕上がっている。
ラストに関しては賛否両論あるが、この不思議な物語の結末としては一つの正解なのではないかと思う。
読者をメタ的な次元へと取り込み、ラストを選択させるような方向性に私は受け取った。
もちろん受け取り方は人次第だと思うが。
原マスミの絵もこの作品の中では大きな意味を持っている。
見開きの絵が挿入されるタイミング、そしてその不気味さは絶妙。
児童書の体裁を使って出来る最大限の破壊的な実験を行っており、それは成功していると感じた。
物語の端々に出てくる戦隊物の話もなかなか破壊的。
"ラビレンジャー"は"タルムード司令"に率いられ、"ジェノサイドロボ"に乗って登場する。
明らかに子供には分からない悪趣味なネーミング。
物語の全体を覆う、児童書に隠れた残虐性を強く表していると思う。
…それにしてもこのネーミングは少々やりすぎだとは思うが。