乙一「GOTH」
森野が拾ってきたのは、連続殺人鬼の日記だった。学校の図書館で僕らは、次の土曜日の午後、まだ発見されていない被害者の死体を見物に行くことを決めた…。触れれば切れるようなセンシティヴ・ミステリー。
(「MARC」データベースより)
51点
かなり昔に読んだ記憶はあったのだが、内容を全く覚えていなかったので再読した。
そして今ひとつ記憶に残らなかった理由も見えた気がした。
主人公の男子高校生と美少女・森野のコンビは非常にいい。
モノトーンを思わせる主人公の色の無い世界観と、ダークな中にどこかコミカルさを持った森野。
コンビとしては異色で、お互いの共存関係も濃いのか薄いのか分からない。
話は六編からなっており、最初の二編までは手放しで面白い。
二人の関係性やキャラクターが存分に生きており、シリーズ化するだけの安定感と、一気にそれが崩れるのではないかという不安さの、危ういバランスが楽しめる。
主人公の殺人者を見る目線の独特さや、深刻になり過ぎない語り口。
ミステリーとしての程よい仕掛けが心地よい。
しかし後半の三篇がいただけない。
後半三篇はミステリーとしての手法に凝りすぎている。
無駄な叙述トリックの多用や、種明かし的な話のラストがどうもストーリーとかみ合ってこない。
あとがきで作者はミステリーを蔑ろにしてきたので、意図的にそれを入れ込んだと語っているが、乙一の持ち味を結果的に消してしまっている。
特に短編での叙述トリックは気をつけるべき手法だと思う。
叙述トリックは大仕掛けにならざるを得ないので、短い話の中では圧倒的に存在感を持ってしまう。
そのせいでこの作品の持つ幻想的で静かなトーンが大きく乱されてしまっているのだ。
また主人公と森野のキャラクターに大きくブレが発生していることも気になる。
作中で成長せずに、作品間でキャラクターが変化しているので、とってつけたように見えてしまう。
この作品に関してはフォーマットを嫌わずに、主人公と森野の関係を維持しながら進めていくのが得策だったのではないか。
そして壊すとしたなら、作中の出来事で大幅に破壊する方がまだ全体の雰囲気を維持できたかも知れない。
序盤から徐々にペースダウンする小説はあまり印象に残りづらい。
その典型的な作品だったように感じる。