道尾秀介「ラットマン」
結成14年のアマチュアロックバンドが練習中のスタジオで遭遇した不可解な事件。浮かび上がるメンバーの過去と現在、そして未来。亡くすということ。失うということ。胸に迫る鋭利なロマンティシズム。注目の俊英・道尾秀介の、鮮烈なるマスターピース。
(「BOOK」データベースより)
83点
このミステリーがすごい!2009の第10位にランクインした作品。
これがなかなかに面白い。
物語は結成14年で三十路のアマチュアバンドを中心として進められていく。
これが奇しくも自分の状況とピタリ符合していた。
自分も高校生からバンドを始めて、今年で30。
そういった意味では非常に物語へ入っていきやすかった。
冒頭、ホラーじみたスタートから一転、気の抜けたスタジオでのバンドメンバーの会話へと移行する。
そこから淡々と話は進み、バンドメンバーの関係や日常が語られる。
この辺りでは、今ひとつ精細を欠いたありきたりな作品かと感じていた。
その裏で作者は黙々と種を蒔いているとも考えずに。
中盤からは一転、緊張感溢れるストーリーに。
話の全体が見え始め、ここからは人間同士の関係や過去を掘り下げるのかと覆っていた矢先。
絶妙の仕掛けが始まる。
そこからは前半に蒔いていた種が次から次へと芽を出し始める。
仕掛けも複雑に配置され、最後まで驚きの連続で進んでいく。
これがただの上質なミステリーを超えているのは、仕掛けの見事さもあるが、それと共に語られる人物描写の上手さ。
優しい視点で描かれた絶妙の人間関係と仕掛けが、それぞれを引き立てるように組み込まれている。
残念だったのは少し回りくどい表現が多かったことと、ルビ点の多さ。
特にルビ点は気になった。
仕掛けが見事なのでルビ点で過剰に強調すると逆にいやらしく感じてしまう。
また音楽のセンスが古いことも個人的には気になった。
30才のバンドだからってMr.Big「wild world」の引用はいくらなんでも無いだろうと…。
冒頭では作品との符号で導入しやすかったと書いたが、作品全体に漂うアマチュアバンド感の古さを気にしてしまうデメリットもある。
少し古臭さは感じたが、ミステリーとしては文句なしの出来。
作者の他作品にも色々と手を出したいと思う。