伊坂幸太郎「死神の精度」
「俺が仕事をするといつも降るんだ」 クールでちょっとズレてる死神が出会った6つの物語。音楽を愛する死神の前で繰り広げられる人間模様。『オール読物』等掲載を単行本化。
88点
仕事の時は必ず雨が降る。
人間の言葉に疎く、音楽を愛し、人の死に興味が無い。
そんなクールでポップな死神の視点で描かれた短編集。
この作品では伊坂幸太郎の良さがとてもよく出ている。
まず主人公となる死神のキャラクターがいい。
異形であり全能の存在である死神を、死の調査員というスタイルで描き人間臭くしている。
音楽が好きであったり、渋滞が嫌いだったりと非常に身近だ。
その反面、人間の死に興味は無く、非常にドライな面を見せることもある。
また人間の言葉にも疎く、真をつくような事をさらっと言ってのけたりも。
この存在が、物語を時にユーモラスに、時にシリアスにと上手く運んでいく役目となっている。
また"死"がテーマのストーリーの中で、ぶれない主人公の存在は見ているものを不思議と安心させる効果を持っている。
そのおかげで過剰に重い話にはなっていない。
話は全六編からなり、それぞれ別の調査対象者が現れる。
死神がその対象者とコミュニケーションをとり、可か見送りかを決めるのだ。
このそれぞれの対象者も非常にいい味を出している。
「死神と旅路」の森岡や「死神対老女」の新田など、超越者である死神とのコントラストが非常に冴えていると思う。
伊坂幸太郎にありがちな人間描写の薄さも、死神の目を通して描くことで、逆に短編全体に柔かいイメージを与えている。
またご都合主義的な展開も、設定とキャラクターの妙の中で違和感が無い。
伊坂作品の良さであるフレーズや台詞の良さも、他作品より抜きん出ている。
知的で柔かい"死"の寓話。
非常に上手く計算された上質の作品に感じた。