中式先攻法ブログ

小説や映画、ドラマなどの感想をダラダラ書いてます。備忘録も兼ねて。

貴志祐介「黒い家」

人はここまで悪になりきれるのか?人間存在の深部を襲う戦慄の恐怖。巨大なモラルの崩壊に直面する日本。黒い家は来るべき破局の予兆なのか。人間心理の恐ろしさを極限まで描いたノンストップ巨編。第4回日本ホラー小説大賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)
Trial and Error

88点


ホラーというジャンルは幅が広い。
「ホラー+SF」や「ホラー+恋愛」など、色々なジャンルを内包する事が出来る。
今回の作品は「ホラー+社会派ミステリー」。
タイトルからは「呪怨」ばりの、霊障ものかと思いきや、作者が描くのはサイコパスである。
しかも「羊達の沈黙」のような一方的な視点では無く、サイコパスと言うくくりつけを否定しつつ描いている。

主人公の若槻は生命保険会社の死亡保険金査定担当。
そして心理学選考の恋人、恵。
サイコパスをただの恐怖として描くだけでなく、保険金という性善説に成り立った職業、そして心理学というベクトルからも突き詰めていき、社会的な意味合いの投げかけとしても深い意味がある。

ただやはりメインはそのサイコパスとの攻防の描写。
落ち着いた展開のシーンと緊迫した場面の攻防が非常に良く描けており、久々に手に汗を握る感覚で読み進めた。
これだけ緊迫感あふれる描写を描ける作者の筆力に脱帽。
このあたりは望月峯太郎座敷女」のイメージに非常に近い。

伏線の張り方も絶妙。
一箇所への伏線だけではなく、複数の伏線を小気味良く消化する上手さは見事である。

全ての要素がパーフェクトに近く、傑作。
ホラーの枠を超えた名作と言えるであろう。