乙一「ZOO」
いま最も注目される若手ナンバーワン、乙一の魅力爆発の短編集。毎日届く恋人の腐乱死体の写真。彼女を殺したのは誰か?「犯人探し」に奔走する男を描く表題作他、書き下ろし新作を含む10編収録。
76点
乙一のいいところである器用さが前面に出た作品。
それぞれの短編のネタはありがちなものが多いのだが、それが多種多様なジャンルに溢れているので飽きずに読める。
ダークなホラーからシニカルなブラックコメディ、叙述トリックミステリー、感動的なSF、バトルロワイアル系の作品。
世の中を斜に見て薄い笑いで皮肉った後に、全力で生命の美しさを描く。
そして全体に乙一テイストの"軽いホラー感"と"若さ"を加えたのが今作品である。
まとまりは非常に素晴らしい。
またシーンやセリフなどの使い方、また展開のつけ方が絶妙。
「陽だまりの詩」での兎とロボットである主人公のシーンは、ともすればお寒いありがちな展開になってしまいがちな話だが、前後の展開で見事にパーツをはめ込んでいる。
「落ちる飛行機の中で」で話される「ノストラダムスの大予言の前に産まれた人間と、そうでない人間では死生観が違う」という話も、唐突ながら着眼点の鋭さ、独特さをつむぎだしている。
私も1999年に19才を迎えたが、主人公の1999年以降の将来設計を考えれなかったという話には共感できる。
ただ突出して心に衝撃を受ける短編は無かったことが残念だ。
現在勝手ながら星5つのハードルはかなり高くなっている。(自分で勝手に評価しているだけだが…)
そこには到達できるほどは「何か」が残らなかった。